神水|フラットに人と本をつなぐ、まちの本屋さん

神水|フラットに人と本をつなぐ、まちの本屋さん

みなさんはお気に入りの本屋さんはありますか?

学校や職場と家との往復の日々、忙しくて充実している、だけど何だか味気ない…。
そんな時、ふらっと本屋さんに立ち寄って本棚を見渡すと、せっかちな心がほどける気がします。

今回は、私のお気に入りの本屋さんをご紹介します。
静かで心地良い空白があって、本の声や自分自身の声に耳を傾けることができる、そんな場所です。

ZINEなどの個人制作本も並ぶオリジナルの選書が魅力「古本と新刊 scene(シーン)」

お店へのアクセス

お店は、県庁通り沿いで砂取小学校のすぐ近くにあります。

電車であれば、熊本市電の「市立体育館前」駅から歩いて約7分。バスは「砂取校前」が1番近いバス停のようです。

お店の駐車場はありませんので、近隣のコインパーキングをご利用ください。メガネのヨネザワさんやファミリーマートさんの周辺にいくつかパーキングが密集していましたよ!

歯医者さんの入っているビルの2階の窓をよく見ると小さく「本」の文字が!

こんなところに本屋さんがあるなんて、知らなければ見逃してしまいそうです。

 

木の風合いが落ち着く店内

木の自然な風合いが活かされた床や本棚が作り出す空間に心が落ち着きます。

本棚に囲まれた真ん中のスペースには小さなソファーが置かれていて、座って本を読むことができます。

土日祝は、店内でドリンクの提供も行われているので、この席で飲まれる方も多いのだとか。

●コーヒー 400円(税込)
●チャイ 400円(税込)
●ジンジャーエール 300円(税込)

コーヒーは「ENDELEA COFFEE」さんのものを出されています。

店内の本は、独自のカテゴリーで分けられ、整然と並んでいます。

⚫︎生き方、働き方を考えるための本

⚫︎食、日々の暮らしのための本

⚫︎旅、冒険、自然の本

⚫︎音楽、映画、その他ポップカルチャーの本 など

置いてある本を見回すだけで、気になるものばかりでワクワクしてきます。
この本たちを選んだのはどんな人なのでしょうか?

店主の高岡さんにお話をうかがいました。

 

自分にしっくりくる仕事を探して

まず気になるのが、このお店を始めるまでの道のりについてです。

高岡さん:元々、漫画や音楽など、特にサブカルチャーが好きだったのですが、初めて福岡にある『ヴィレッジヴァンガード』を訪れた時はカルチャーショックを受けました。その後、熊本にも進出した『ヴィレッジヴァンガード』で働き始め、書店員としての経験を積みました。

『ヴィレッジヴァンガード』を退職したあと、自分でなにかやりたいなと思った時に自分が好きで買い揃えていた本を売ったらどうかと考え、古本のネット販売を始めました。ネット販売と並行しつつ全く別の仕事にもいくつか就きましたが、自分の中でしっくりくる仕事は見つかりませんでした。

『自分で仕事として一本でやれるものを見つけたい』。そう思った時に、自分が何ができるのか、今まで何をやってきたのか、を振り返って辿り着いたのがやっぱり『本を売る仕事』。2022年に現在の店舗を持つことになりました。

店舗を持つことになった時も特に何か大きなきっかけがあった訳ではないと話されていたのが印象的でした。

本が好きという気持ちが、自然とこの場所に高岡さんを運んでくれたのかもしれません。

お店に置く本を選ぶ時に大切にしていること

お店に置いてある本は、ほとんど古本と新刊のバランスに偏りがないとのこと。
新刊は、高岡さんが全て自ら注文をされています。

高岡さん:一般書店だと配本というのがあって、ある程度自動的に新刊が送られてくる仕組みがあるのですが、うちに関してはそれがないので、どの本を注文して棚に並べるかは全て自分で決めています。

出版社さんのHPを見て新刊の案内が出ていたりするので、それを見て注文するかどうかを決めることがほとんどです。
大手の出版社さんの本も扱ってはいますが、もう少し小さい規模感の出版社さんの本を注文することが多いです。

それくらいの規模感の出版社さんだとそれぞれに独自のカラーがあることが多く、この出版社から出る本なら間違い無いだろうと信頼をしている部分もあるからです。

あとは、著者さんだったりとか、結構重要視しているのが編集者さんです。この編集者さんはいつも良い本を作るなという方が居たりするので。

著者さんだけではなく、編集者さんに着目して本を選ぶという発想が今までなかったので、今度から私も本を選ぶときには注目してみたいです!

そんな店内の品揃えの中で私が特に気になったのが、ジェンダーやマイノリティに関する本が多いことです。
どういった思いがあるのでしょうか。

高岡さん:今まで自分が好きなものが中々理解してもらえなかったりだとか、なんとなく周囲に馴染めない感覚があって、ずっと自分は少数派の人間だと思って生きてきたんですけど。

それはそれとして、一方で男性であり性的マイノリティでもない、という社会的にはマジョリティーという立場で生きてきたので、もしかしたらその中で、女性やマイノリティの立場にいる人を無意識に傷つけてしまったことがあるかもしれないと思うことがあって。なので、マイノリティの人達にとって、少しでも良い影響を与えることのできる本を置きたいと思っています。

高岡さんがフラットな視点で選ばれた本を読むことができるのはとても心強いです。
「生きづらさ」にはいろいろな形があるけれど、それぞれに寄り添おうとしてくれる本たちが「scene」さんにはあります。

また、ZINEやリトルプレスが置いてあるのもこのお店の大きな特徴です。

「ZINE、リトルプレス」とは?

個人や小規模な団体が少部数で製作し、出版社を通さずに出版する冊子や本を指す言葉。

近年、若者を中心に注目され、都市部では大規模な販売のイベントなども行われていますが、熊本で個人制作の本を販売している書店はとても珍しいと思います。

高岡さん:今、ZINEなど個人制作の本の中で人気のあるジャンルが「日記本」です。
その名の通り、著者の日常を記した日記を書籍にまとめたもののことを指します。

私もnoteで日記を書いているんですが、日記って小説とかエッセイに比べると書くハードルが低いと思うんです。
でも他人の日記を読むことなんて普段ないから、読む方からしたら面白いですよね。

他人の日記を読むって、たとえ公に販売されている本であっても、なんだか盗み読みをしているようで少しドキドキしてしまいます!

違う誰かの日常に触れることで新たな発想を得たり、自分の日常と向き合う機会にもなりそうです。

今の私におすすめの本を選んでもらう

次に、高岡さんに私におすすめの本を選んでいただきました。

さびねこ:最近、新しいことにチャレンジしたいと思った時に、プレッシャーや恐怖心を感じてしまって、なかなか一歩が踏み出せないことが悩みです…。
そんな私におすすめの本ってありますでしょうか?

高岡さん:それはどうしてプレッシャーを感じてしまうんでしょう?

さびねこ:うーん、人と比べてしまうからだと思います。他の人と比べて上手くやれなかったらどうしよう…とか。

高岡さん:なるほど…(しばらく考えた後)ぴったりの本があるかもしれません。

そう言って、高岡さんが本棚から持ってきてくださったのがこちらです。

なんとも個性的な2冊!「ドリル」「自習法」という言葉から、どちらも学生時代の勉強の教材を連想しました。

購入本の紹介

他にもたくさん欲しい本があったのですが、悩んだ末に購入したのはこちら。

●「群れから逸れて生きるための自学自習法」向坂くじら/柳原浩紀 1,980円(税込)

高岡さんにおすすめしていただいた本の中から選んだ1冊です。私の悩みとこの本の内容がどのように繋がっていくのか、想像ができなかったので読んでみたくなりました!

詩人で、小学生から高校生を対象とした国語塾を開いている向坂くじらさんと現役の教育者である柳原浩紀さんの共著です。

テストで良い点を取ることだけを重要視し、生徒自身に考えさせず暗記を強要するような教育法に疑問を呈し、1人で学ぶための方法「自学自習法」を提唱した本。人間が物を覚えるプロセスや勉強の本質から、実践的な5教科の勉強法まで分かりやすく書かれています。

「理解するってどういうことか」「考えるってどういうことか」などの根本的な問いかけは、私のように新しく何かを始めたいと思っている大人にこそ必要なのではないかと思いました。

「誰かに評価されたり、誰かに勝つためではなく、自分のために学ぶ。」という大切なことを教えてくれた本です。

高岡さん、本当にぴったりの本と出会えました。ありがとうございます!


●「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」松田青子 文庫本 814円(税込)

作家・翻訳家である松田青子さんによる短編集です。社会から理不尽に押し付けられる「◯◯らしさ」や「こうであるべき」という固定概念に軽やかに抵抗する主人公たちの姿が描かれています。

松田青子さんの作品を初めて読んだので、ファンタジックで実験的な世界観に最初は少し戸惑いましたが、クスッと笑える部分もあり引き込まれて一気に読んでしまいました。

「私の心も体も全て私のもの。それを忘れないで、私が私でここに居ることが私の戦い方だ。」と思うことができました。勇気をもらえる作品です。

 

●「NEVERLAND DINER 二度と行けない熊本のあの店で」600円(税込)

都築響一さんが編集された『NEVERLAND DINER 二度と行けないあの店で』のスピンオフ企画として生まれたZINEです。現在、各地域版が全国で展開されているのですが、熊本版の制作を「scene」さんが担当されました!

高岡さんがお声がけされた、熊本で個人店を営まれている店主さんや常連のお客様を中心に執筆された文章がまとめられています。

このZINEにつづられている、もう閉店し今は行くことができないお店には、私はどれも行ったことがないのがとても残念です…。でも私は知らないはずの「そのお店」や「その場所」の空気感が立ち上るような本でした。

なくなっても心にずっと残っている、そんな人や場所が熊本という街や文化を作ってきたのだと思います。

私は、九品寺にあった坦々麺屋さん「たんたんの郷」にもう一度だけで良いから行きたいです(涙)。

目標は1日でも長く続けること

高岡さんが自分にしっくりくる居場所を求めて辿り着いた「scene」というお店。
最後にこれからのことを伺いました。

「目標は、このお店を長く続けることです。」と高岡さん。

店舗を持ってもうすぐ3周年。書店が書店としてそこに在り続けるだけでも、もはや簡単なことではありません。

今回の取材を通して、改めて「本」は広い世界を教えてくれる存在だと感じました。

今、居る場所がなんだかしっくりこないと感じる時、実は選択肢は他にもたくさんあるのかもしれません。

自分にしっくりくる場所を探し続ければ、いつかきっと見つかるはず。

「私はどう生きたいのか」「私はどんなふうに働きたいのか」

自分と向き合おうとする時、本は頼もしい相棒のようであり、道を教えてくれる先生のようでもあります。

「古本と新刊 scene」さんにふらっと立ち寄ってみれば、そんな本に出会えるかもしれません。

INFORMATION

店名:

古本と新刊 scene(シーン)

住所:

熊本県熊本市中央区神水1丁目2−8輔仁会ビル202号室

電話番号:

090-9485-5667

営業時間:

12:00~21:00

定休日:

金曜日
※その他不定休の場合あり

一人当たりの予算:

〜¥1,000

※記事内の情報は記事執筆時点のものです。正確な情報とは異なる可能性がございますので、最新の情報は直接店舗にお問い合わせください。


WRITTEN BY
さびねこかのこ

さびねこかのこ

山鹿市出身。今は熊本市在住。普段は、マーケティングの会社でWebライターをやっています。好きなものは、バレーボール観戦・読書・猫など。推しがたくさん居ます。食べ物は、担々麺といくらが好きです。わりと最近東京から帰ってきたUターン組なので、地元の方にも移住してきた方の気持ちにも寄り添いたい所存!よく知っている熊本と新しく出会う熊本、どちらも大切にしながら、素敵な情報をお届けできたらと思います。